次第に心を通わせてゆく3人の暖かな物語。本年度アカデミー賞5部門のノミネートほか、世界各国の賞を受賞。『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

 アメリカ・マサチューセッツ州にある名門学校を舞台にした、クリスマス・シーズンの物語と言えばいいだろうか。時期は1970年。中心となるのは堅物の古代史教師・ハナム、母との旅行を楽しみにしていたが(母の事情により)反故にされた生徒アンガス、ひとり息子をベトナム戦争で失った料理長のメアリー。他の生徒やスタッフはそれぞれの場所でそれぞれの休暇を満喫しているが、この3人は雪に閉ざされた学校で、年末年始を過ごす。

 まったくといっていいほど違う立場の3人である。こういう機会がなければ、ひょっとして打ち解けた会話をかわすこともなかったかもしれない。しかし、人はひとりではいられない。ましてや暖房も止められているような冬の、だだっ広い学校である。アンガスは根っこからグレていたわけではなかったし、ハナムにも人間臭い一面がたっぷりあって、仕事面ではひたすらテキパキしているメアリーも現場を離れたら優しいひとだ。ひとりが、ほかのふたりへの先入観をこわして、しだいに打ち解けていくあたりの描写が実に細心に描かれている。

 しかもこの3人、とあることから全員が「パリピ」ではないことがわかってくる。私はなんとなくアメリカに関して「パリピ体質の人や、プロムで目立ちまくる人、マッチョなマインドを持つひとが勝つ国」という印象を持っているのだが、そういう意味では3人とも「光側」ではなく「影側の人」であるかもしれず、ゆえに共感を持って作品に見入ることができたのかもしれない。

 サウンドトラックには、たとえばザ・ショッキング・ブルーの「ヴィーナス」、バッドフィンガーの「嵐の恋」、トニー・オランド&ドーン「ノックは3回」などが含まれていて、それが作品の「1970年感」の表出に大きく貢献している。そのなかでメアリーの息子がジャズ・クラリネット奏者アーティ・ショウのファンだった、という設定が異彩を放っていた。なぜならアーティは第二次世界大戦の頃に全盛期を迎え、1950年代半ばに引退しているからだ。メアリーとその息子についてさらにクローズアップしたスピンオフ版をいつか望みたいと思った。また、ボストンが、その近郊に住む人にとっては「大都会」であることなどが、とてもよくわかった。

 監督はアレクサンダー・ペイン、ハナム役はポール・ジアマッティ。つまり2004年作品『サイドウェイ』のコンビが再会したわけだ(ここでもポールは教師役だった)。メアリーにはダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、アンガスにはドミニク・セッサが扮する。

映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

6月21日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:デヴィッド・ヘミングソン
出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ
133分/1.66:1/2023/アメリカ 日本語字幕:松浦美奈
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC.

公式サイト
https://www.holdovers.jp/