フランス人になりすましたユダヤ人青年が、ひとりナチスに立ち向かった「方法」とは? 『フィリップ』公開へ

 1941年、ナチズムの嵐が吹き荒れる中、目の前で恋人をナチスによって殺されたポーランド系ユダヤ人が、「フランス人」に扮することでサヴァイヴし、おろかナチス将校たちの妻を次々と誘惑して、いささかなりとも私恨を晴らしていた話――――ということになろうか。原作は検閲で大きく削除された後、1961年に出版されたが、すぐに発行中止となり、2022年にようやくオリジナル版がリリースされたという。

 これだけでも実に興味深いところだが、この原作者がレオポルド・ティルマンドによるものであるという箇所こそが、最も大きく私の興味をひいた。というのは、彼は作家であると同時に、1958年に始まり、現在もなお続いているポーランドを代表するジャズ祭「ジャズ・ジャンボリー」の創設スタッフのひとりだからだ。言い方を変えればポーランドにジャズを広めるために尽力したのがレオポルドである。主に戦時中の出来事を描いたこの映画の中にも、デューク・エリントン・オーケストラのレコードに耳を傾けるシーンが登場するが、ジャズを敵性音楽とする時代風潮の中で、ジャズファンを貫くのは命がけの行為だったに違いない。「ユダヤ人というだけで殺しの対象になる」時代の中、「(同様にアーリア人ではない)黒人の音楽」に、彼は一種の楽園を見出していたのではないかとも私は考えた。

 監督と脚本(一部)はミハウ・クフィェチンスキ、脚本はミハウ・クフィェチンスキチ(レオポルド・ティルマンドの小説に基づく)。フィリップにはエリック・クルム・ジュニアが扮する。サウンドトラックには米国のバークリー音大を卒業したジャズ~クラシック・ピアノの俊英、マルチン・マセッキも加わっている。

映画『フィリップ』

6月21日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督:ミハウ・クフィェチンスキ
脚本:ミハウ・クフィェチンスキ、ミハル・マテキエヴィチ(レオポルド・ティルマンドの小説『Filip』に基づく)
出演:エリック・クルム・ジュニア、ヴィクトール・ムーテレ、カロリーネ・ハルティヒ、ゾーイ・シュトラウプ、ジョゼフ・アルタムーラ、トム・ファン・ケセル、ガブリエル・ラープ、ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ、サンドラ・ドルジマルスカ、ハンナ・スレジンスカ、マテウシュ・ジェジニチャク、フィリップ・ギンシュ、ニコラス・プシュゴダ
撮影:ミハル・ソボチンスキ 美術:カタジーナ・ソバンスカ,マルセル・スラヴィンスキ 衣装:マグダレナ・ビェドジツカ、ユスティナ・ストラーズ メイクアップ:ダリウス・クリシャク 音楽:ロボット・コック プロデューサー:ポーランド・テレビSA 配給:彩プロ
|原題:Filip | 2022 | ポーランド | ポーランド語、ドイツ語、フランス語、イディッシュ語 | 1: 2| 124分 | 字幕翻訳:岡田壮平 | R-15+  後援|ポーランド広報文化センター
(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

公式サイト

https://filip.ayapro.ne.jp/